中島 麦「動きと光の物語 -light/moving- 」
[EXHIBITION]
2018.12.9 sun. - 2019.4.6 sat.
2次元の世界にいながら、3次元への世界へと繋がる感覚が呼び起こされ、しかも定着している絵の具の塊が、まるで液体のままキャンバスの上に溜まり、今にも動き出そうとしている。
さらには、光が絵の具の中に凝集し、母胎に宿った光のごとく饒舌になにかを語り始める。そんな絵画になればと日々大阪のアトリエで制作に励んでいます。(中島麦)
美術家の中島麦は、抽象的でコンセプチュアルな絵画や、公共空間における作品制作、あるいは窓に風景を写し取るワークショップなど、ペインティングの可能性を追求する様々な活動を精力的に行っています。
cafe104.5での「動きと光の物語 -light/moving- 」展は、こうした中島の多彩な活動から、正方形のキャンバス上を緩やかに流れる数色の絵具の運動そのものを捉えた「luminous dropping」シリーズを中心とする作品を紹介いたします。「動き」「空間」「光」という絵画を構成する根源的な三つの出来事 を限られた平面の中で表現しようとするこのミニマルな絵画は、「キャンバスに置かれた巨大な絵具の一滴」というコンセプトを基に2017年頃から制作されてきました。キャンバス上の一枚の絵であると同時に空間内の一滴の色彩でもある各々のキャンバスは、単純に絵として並べられるのではなく、空間全体との相互作用を作家自身が現場でひとつひとつ入念に確かめたうえで配置されています。絵画による空間全体を用いたこのインスタレーションとともに、過去の小作品も併せて展示しています。
平面と空間、液体と固体、物体と運動という相反するものごとの共起を試みる中島の「luminous dropping」は、特別に縁を高く仕立てた正方形のキャンバスを水平に置き、その上から発色や透明度の異なるアクリル絵具を流しこむことで制作されています。絵具の色味の差は顔料や溶剤の成分や比率や粘度といった物質的特性の差でもあり、特性を異にして隣り合う液体同士は、流し込まれる分量や速度や位置やタイミングなどの影響も受けながら、複雑で微細な物質のふるまいと駆け引きを生み出します。中島自身は素材や手順などの大枠の決定を担う一方で、細部の仕上がりはその手を離れ、微視的な物理現象へと託されています。それは日本画において自然の豊かさを捉えるために偶然性を積極的に取り入れる術として琳派の画家が考案した「たらしこみ」の技法にも似ています。いずれも、人が人の手を越えたものを描くために物そのものの世界と対等に向き合うことから生まれた試みといえるでしょう。そこでは構想や操作といった人間の意思や身体を介した営みと、張力や重力といった物質の営みが、フラットな存在として共起しています。無数の複雑な現象を含んだ複層的な時間は、この無主体的なプロセスを経て、縁高のキャンバスという空間に写し取られ、作品のコンセプトと実体とイメージは、ひとつのものとしてそこに重なり合っています。
中島の作品は20世紀半ばのアメリカの抽象表現主義以降、とりわけ後期のカラーフィールド絵画を含むポスト・ペインタリー・アブストラクションから、ミニマリズムを経て批判的に展開したプロセス・アートへと至る系譜に、さらなる可能性を示すかのようです。色彩の局地的な接触と混和による深みはマーク・ロスコやジュールズ・オリツキーなどの画家をまず連想させ、流体を扱う技法は、ストロークと絵画平面を分離させたジャクソン・ポロックのドリッピング技法や、キャンバスに絵具を染み込ませるモーリス・ルイスのステイニング技法、あるいは高粘度の絵具を用いたリンダ・ベングリスのアンチ・フォーム的な制作を想起させます。しかし、中島はそのいずれでもない領域を拓きつつ、「動き」「空間」「光」という絵画の根源的な要素に立ち返ります。記号や文脈の操作ではなく絵画そのものと向き合い、作品の構想と制作過程とその結果を正確に一致させることで生まれた中島の作品は、絵画史の本流に新たな可能性を示すものといえます。そしてそれは、「もの」そのものや自然と繊細に向き合う日本の伝統的な感性とも、人間の領域を超えた事象と存在に対する関心の世界的な高まりとも、深く結びついているものでしょう。
cafe104.5のお食事とともに、どうぞごゆっくりと中島麦の作品をお楽しみください。
(cafe104.5店内でご自由にご覧いただけます。貸切の日もございますのでスケジュールをご確認のうえご来店ください。)
中島 麦(nakajima mugi)
美術家。大阪在住/京都市立芸術大学美術学部 油画専攻 卒業。
抽象絵画を制作する事を中心に、そこから拡張する出来事を取り込みながら活動中。
個展、企画展、アートフェア、地域型アートイベント、コラボレーション、ワークショップ等展示多数。
OFFICIAL WEBSITE: http://mugiworks.web.fc2.com/
INSTAGRAM:https://www.instagram.com/nakajimamugiworks/
TWITTER:https://twitter.com/mugimugi78
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